FIAT 500 (2007–)|逸話
戦後イタリアの象徴だった「チンクエチェント」が、2007年に21世紀仕様として復活。 ただのレトロデザインではなく、“国民車の再構築”という壮大な挑戦だった。 イタリア人の遊び心と執念が詰まったその開発ストーリーを紐解きます。
「312」——“パンダの血”を引く再誕
開発コードは「312」。 実はプラットフォームのベースは2代目パンダと共通で、 イタリア北部トリノ工場ではなく、ポーランド・ティヒ工場で生産された。
“7月4日”に発表された理由
2007年7月4日は、1957年初代ヌオーヴァ500誕生からちょうど50年の日。 FIATはこの日を「再誕の日」とし、ミラノで大規模パレードを開催。 まるで“映画の公開イベント”のような演出で、クルマとして異例の発表方式だった。 7月4日はアメリカ独立記念日でもあり、FIATは「自由と再生」の象徴と重ね合わせていた。
センターコンソールの“笑顔”デザイン
メーターパネルからセンターにかけてのラインは「笑っている顔」を意識。 デザイナーのロベルト・ジョリートは「500に乗る人も、見送る人も笑ってほしい」とデザインの意図を語っている。 実際、正面から見るとグリルとランプが“顔文字”のように配置されている。
“500”ロゴはヴィンテージ書体を復刻
リアゲートに輝く「500」バッジは、1957年当時の書体をベースに現代風にリデザイン。 イタリアの職人書体デザイナーが当時の資料をスキャンして筆記曲線を再現した。
初代の“前ヒンジドア”を現代に再現?
初代500ではドアが前ヒンジ開き。 現代版では安全上採用できなかったが、内張りのラインで“ヒンジ跡”をモチーフを演出。 初代を知っているオーナーにしか分からない仕掛けである。
“POP”“LOUNGE”“SPORT”——グレード名にも哲学
単なる装備差ではなく、“性格の違い”を表現したネーミング。 POP=カジュアルで陽気、LOUNGE=都会的でお洒落、SPORT=イタリア流のアクティブ。 同じクルマで三つのライフスタイルを提案するという考え方。
エンジン音まで“イタリア語”
500 TwinAirの2気筒エンジンは、あえて少し荒い回転音を残している。 開発責任者は「完璧より、キャラクター」と語り、 音の揺らぎを“人の声”のようにチューニングしたという。 実際、アクセル操作に対して「声の抑揚」があると評された。
by Gucci——ファッションとの融合
イタリアブランドGucciとのコラボモデルは、デザイナー・フリーダ・ジャンニーニ監修。 グッチストライプをサイドに走らせ、内装にもモノグラムを配置。 発売時は“走るバッグ”と呼ばれた。
アバルト化された“スコーピオン”の遺伝子
派生のAbarth 500は単なるチューニングではなく、“独立開発”。 サスペンション、ECU、排気系は専用設計で、 “小さなボディで本気の走り”を実現した。 サーキットでテストされたこのモデルは、今なおカルト的人気を誇る。
チンクエチェントは“感情”の車
世界累計200万台を超えるヒットを記録したFIAT 500。 しかしその開発哲学は「スペックではなく、人の心を動かすこと」。 イタリアでは今も、500は“家族の一員”として扱われる存在だという。